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東京高等裁判所 平成2年(ネ)702号 判決 1990年8月29日

控訴人 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 西坂信

同 村松道弘

同 北原雄二

被控訴人 高野良典

被控訴人 有限会社 丸和住宅

右代表者代表取締役 大森章好

右訴訟代理人弁護士 澤田利夫

主文

原判決を取り消す。

被控訴人高野良典は控訴人に対し、別紙物件目録(一)記載の土地についてされた宇都宮地方法務局佐野出張所昭和五九年一二月四日受付第一三七七五号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

被控訴人有限会社丸和住宅は、控訴人に対し、別紙物件目録(二)記載の土地についてされた宇都宮地方法務局佐野出張所昭和五九年一二月一五日受付第一四三一〇号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人ら)

本件控訴を棄却する。

第二  当事者双方の事実の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決書事実摘示第三ないし第八(ただし、後述のとおり、第一一と改める。)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決書二枚目裏一〇行目の「第一ないし第三項」を「第一項のうち、控訴人がもと本件土地を所有していたこと及び第二、三項」と改める。

2  原判決書三枚目表二行目の「被告高野」を「被控訴人ら」と、同四行目の「本件土地」を「本件土地(いずれも農地法にいう市街化区域内の土地である。)」と改める。

3  原判決書四枚目表五行目の「被告高野」を「被控訴人ら」と改め、同行の「抗弁事実」の次に「中本件土地が市街化区域内の土地であることは認めるが、その余の事実」を加え、同六行目の「被告との」を「被控訴人ら間の」と改める。

4  原判決書四枚目裏四行目を削り、五枚目表六行目の「錯誤した」を「誤信した」と改め、同一〇行目の「兼本」の次に「昌也(以下「兼本」という。)」を加え、同裏八、九行目を削る。

5  原判決書六枚目表一行目の「五」を「六」と改め、その前に、次のとおり加える。

「五 公序良俗違反

1 控訴人は、経済的法律的判断能力が非常に乏しい者であり、被控訴人高野との本件売買契約時には、その母親である甲野花子(以下「花子」という。)から準禁治産宣告の申立てがなされており、その後、現実に準禁治産宣告を受けたものである(昭和六〇年一月二二日確定)。

2 控訴人は、右のように判断能力が乏しかったため、本件以前から兼本の仲間により散々食い物にされ、大きな損害を受けていた。

3 被控訴人高野らは、控訴人の右のような状態を十分に認識し、さらにこれに追い討ちを掛け、控訴人に対し準禁治産宣告の審判が下される前にその財産を食いつぶしてしまおうと企て、急ぎ本件取引を成立させたのである。

4 被控訴人高野らの右行為は、控訴人の無知浅慮に乗じ、綿密に練り上げられた計画的なものであり、しかも、控訴人の被控訴人高野や兼本に対する信頼、善意を悪用したものである。

5 しかも、被控訴人高野は、事情を知らない控訴人に対し、代金の支払として決済不能の小切手を振り出しており、何らの経済的負担を負っていない。

6 本件土地は、本件契約当時、時価二億円を下らなかったものであるが、被控訴人高野はこれを僅か一億円で買い取ってしまい、控訴人は一億円を越える被害を被った。

7 以上のとおり、控訴人と被控訴人高野との本件土地売買契約は、公序良俗に反し、無効であり、被控訴人らは本件土地につき無権利者である。」

6 原判決書六枚目裏二ないし四行目を次のとおり改める。

「第八 再抗弁に対する被控訴人らの認否

一  再抗弁第一ないし第四項、第六項の事実は否認する。

二1 再抗弁第五項1の事実は認める。

2 同2の事実は不知。

3 同3、4の事実は否認する。

4 同5の事実は、被控訴人高野は否認し、被控訴会社は不知。

控訴人主張の小切手の金額相当額は、結局被控訴会社の売買代金により決済されている。

5 同6の事実のうち、本件土地の時価は否認し、主張は争う。

右土地の時価は一億二〇〇〇万円程度であった。

仮に時価が二億円程度で、本件の売買価格の約二倍相当であったとしても、その程度の乖離で直ちに右売買契約が公序良俗に反するとはいえない。

また、暴利行為で無効とされるためには、弱者的地位にある者の無思慮や窮迫に乗ずるという主観的要件が必要であるが、本件の売買契約には、右のような事情はない。

第九 被控訴会社の再抗弁

仮に控訴人主張の通謀虚偽表示又は詐欺の再抗弁が認められたとしても、被控訴会社はそのことを知らなかった。

第一〇 再々抗弁に対する控訴人の認否いずれも否認する。

第一一 証拠《省略》

理由

一  請求原因第一項の事実のうち控訴人がもと本件土地を所有していたこと及び同第二、三項の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  抗弁、再抗弁、再々抗弁は、相互に関連する一連の事実関係を基にするところであるので、それぞれの判断に先立って全体としての事実関係について当裁判所の判断を示しておく。

1  《証拠省略》を総合すると、次の各事実が認められ、これを左右するに足りる的確な証拠はない。

(一)  控訴人は、昭和五四年六月ころ、甲野太郎及び花子から本件土地を含む多数の土地を贈与によって取得した。

控訴人は、佐野農業高校を卒業しており、識字能力など日常生活の上で別段能力に欠けるところはないものの、他人の言うことを信じやすく、自己の利害得失についての基本的判断能力に欠け、財産管理能力に乏しい面があった。

(二)  控訴人は、昭和五九年四月(以下年度を表示しないものは、すべて、昭和五九年である。)か五月ころ、金融業者である訴外北田慎也(以下「北田」という。)から二回にわたり合計五〇〇万円を借り受け、その際、同人に本件土地を含む登記済証を渡した。控訴人は、約一か月後に右借入金を返済したが、その際、北田から、土地を担保に利用させてくれたら礼金を払うと言われてこれを承諾し、五〇万円の礼金を受けて右登記済証を再び同人に預けた。ところが、北田は、控訴人が知らない間に、六月一五日付けで本件土地等に北田を債務者とし、訴外大山護を権利者とする極度額二億円もの根抵当権設定仮登記を付してしまった。

(三)  控訴人は、思いもかけず、二億円もの根抵当権が設定されたことに驚き、北田に善処方を要望したが、なかなか埓があかなかった。六月ころ、北田のスポンサーであるグリーンファイナンスの社員の田代裕二(以下「田代」という。)が身分を秘して控訴人に接近し、そのままにしておくと大変なことになるから、一部肩代わりをしてもらってでも右登記を抹消した方がいいなどと言い、金融業をしていた兼本を紹介した。

(四)  控訴人は、当時田代を信用していたので、同人が紹介してくれた兼本も信頼し、同人方で、言われるままに数通の書類に署名捺印したが、その中に、本件土地等に債務者を控訴人、債権者兼抵当権者を兼本、債権額を一億一〇〇〇万円とする抵当権を設定する旨の書類があった。こうして、本件土地上の極度額を二億円とする前記仮登記は抹消されたものの、新たに七月一九日付けで、兼本のため右内容の抵当権設定登記がされてしまった。控訴人は、右署名捺印をするにあたり、北田の債務額がいくらで、兼本が北田の債権者にいくら支払ったのかも調べず、本当のところは全く知らなかったが、兼本は、その後まもなく、控訴人に対し、一億一〇〇〇万円を返済期を同年七月一〇日と定めて貸し付けたので、元利合計額は一億三三〇〇万円になるとして、その返済を迫るようになった。

なお、兼本は、本件土地の地元の不動産業者等に聞いて、本件土地は、時価の七割相当としても、二億円位の担保価値はあるものと評価していた。

(五)  九月ころから、兼本を通じ、埼玉県内の金融業者から控訴人に肩代わりのために金員を借り入れてはどうかとの申し入れがなされるようになった。同月二八日には、控訴人が訴外株式会社司商事から一〇〇〇万円を借り受けたとして、本件土地に一〇月三一日付け抵当権設定仮登記がなされた。一〇月下旬には、訴外緑十字なる者から、控訴人の母花子に対し、本件土地の抵当権について解決してやるから、解決のための権限を委ねてほしいとの申し入れがあった。また、兼本も、控訴人方に来て、花子に対し、控訴人の兼本に対する前記債務を花子が責任をもって返済する旨の念書を書くよう求めた。

花子は、これらのことから、はじめて本件土地に前記抵当権が付されていることを知り、一一月初めころ、控訴人訴訟代理人西坂弁護士らに相談した。同弁護士らは、北田、田代、兼本らが控訴人を騙して本件土地に前記抵当権を設定させたものと判断し、このままだと、近い将来控訴人はその所有する不動産をすべて失う事態になるとして、花子を申立人として、同月一二日、宇都宮家庭裁判所足利支部に控訴人に対し準禁治産宣告の申立てをした。

兼本は、控訴人から、花子が準禁治産宣告の申立てをしたことを聞き、審判が出る前に控訴人に本件土地を処分させて利益を得るのが得策だと考えた。

(六)  被控訴会社は不動産業者であるが、九月か一〇月下旬ころ、千葉県松戸市の同業者である株式会社東洋住宅センターの代表者訴外出井松夫(以下「出井」という。)の義弟橋本利一(以下「橋本」という。)を通じて本件土地が売りに出されているとの話を聞き、兼本等と交渉した末、これを買い受ける意向を固めた。その際、被控訴会社は、直接控訴人から買い受ける形では困るとして、第三者が中間に入る形で行うよう要望した。

不動産業者である被控訴人高野は、もと東洋住宅センターを手伝っていたこともあったため、出井等に頼まれて、形式上、本件土地を一旦同被控訴人が控訴人から買い入れ、中間者としての利益を得た上でこれを被控訴会社に転売(あるいは買主たる地位の譲渡)することに話が決まった。

(七)  一一月一四日、被控訴人高野、兼本、出井、大橋茂雄(以下「大橋」という。)、渡辺偉(以下「渡辺」という。)らは、栃木県佐野市所在のファミリーレストラン「デニーズ」に集まり、控訴人も、大橋から呼ばれて出席した。なお、渡辺は、被控訴会社から立会いの依頼を受けていた野田尚吾司法書士の代理として出席したものであった。控訴人は、当時、花子が西坂弁護士らに依頼して本件土地等の保全を図ろうとしていたにもかかわらず、依然として兼本を信頼し、兼本が、控訴人を準禁治産者にするということは、控訴人が馬鹿にされているということだ、弁護士に頼んでも無駄だなどというのを信じ、兼本に任せておけば、控訴人のために良い解決をしてくれるものと思っていた。したがって、デニーズで、兼本や大橋から、抵当権の実行を避け苦境を脱するためには土地を売るしかない、その代り、後日北田から金銭を回収して控訴人に渡してやるなどと言われて、本件土地を売ることを承諾し、右両名から指示されるまま、被控訴人高野に対し、本件土地を代金一億円で売り渡すという売買契約書に署名捺印した。

席上、被控訴人高野は、右代金の支払いのために同人が代表取締役をしていたダイエー資材株式会社振出の小切手を控訴人に交付したが、同社は、手形取引停止処分により一〇月二日に当座預金口座を解約されており、右一一月一四日当時、右小切手は資金の裏付けもなく支払われるはずもないことは明らかなものであった。しかし、右の事情は、兼本や被控訴人高野をはじめ大橋等控訴人以外の者は知っていたが、控訴人は、このような事情は全く知らないまま、領収書に土地売買代金として一億円を受領した旨記入し、署名捺印してこれを交付した。

翌一五日、控訴人は、大橋に呼び出されて公証人役場に行き、被控訴人高野との間で、前日の一四日に本件土地の売買契約が成立し、即日、代金一億円が支払われた旨の公正証書を作成した。

(八)  一一月二一日、控訴人は、大橋に呼び出されて野田司法書士事務所に赴いたところ、被控訴人高野、被控訴会社代表者、兼本、出井等がいた。被控訴会社代表者は、控訴人と会い、運転免許証で本人であることを確かめ、被控訴人高野に本件土地を売り渡したことを確認した。また、被控訴会社代表者は、これに先立つ同月初めころ、市役所で控訴人の身分証明書をとり、控訴人が準禁治産者でないことを調査しており、また、控訴人と被控訴人高野との間で売買につき公正証書が作成されたことも確認していた。

控訴人は、右事務所で、兼本の指示に従い、農地法関係書類(本件土地については、市街化区域内にあるため、届出で足りた。)に署名捺印した。兼本は、野田司法書士に対し、本件土地の権利証を預け、また、兼本の抵当権設定登記及び司商事の抵当権設定仮登記の抹消登記をするのに必要な書類を作成・交付した。

一二月四日、本件土地(一)につき、被控訴人高野のために所有権移転登記がされた。

(九)  一二月一五日、足利銀行栃木支店で、被控訴会社代表者、被控訴人高野、兼本、出井、加藤四郎、橋本らが集まった。そこで、被控訴人高野が被控訴会社に対し本件土地(二)を代金一億一八〇〇万円で売る旨の売買契約書が作成された。被控訴会社は、右一億一八〇〇万円を前記銀行から借り受け、額面六五〇〇万円の保証小切手及び現金五三〇〇万円として代金全額を支払った。

被控訴会社代表者を除くその余の者は、プリンスホテルのロビーに赴き、同所で兼本が右代金の分配をした。一億一八〇〇万円のうち、約八五〇万円が本件土地の税金の支払に充てられ、一〇〇〇万円が司商事に対する貸金の返済分とされ、一〇〇万円が被控訴人高野に対し野田司法書士に対する登記料を含めて渡されたほか、出井、加藤、大橋らに手数料としてそれぞれ数百万円が渡され、残金約七六五〇万円は、兼本が自己の控訴人に対する貸金の返済分として取得した。

右同日、兼本や司商事の抵当権設定登記及び抵当権設定仮登記と大蔵省の抵当権設定登記が抹消され、本件土地(二)につき被控訴会社のために所有権移転登記がされた。

(一〇)  その後、宇都宮家庭裁判所足利支部は、控訴人は、財産観念に乏しく、自己の利害得失についての基本的な理解、判断をする力に欠けるところがあり、他人の言うままになる傾向が認められ、放置すると自己の所有する財産をすべて失うおそれがあり、浪費者に当たるとして、控訴人に対し準禁治産を宣告し、花子を保佐人に選任した。右審判は、昭和六〇年一月二二日確定した。

1(一)  以上の事実によると、本件土地は、一一月一四日、控訴人から被控訴人高野に対し売り渡されたものであり、本件土地(二)は、さらに、一二月一五日、被控訴人高野から被控訴会社に売り渡されたものというべきである。

控訴人は、本人尋問において、被控訴人高野に対し本件土地を売り渡すことが理解できなかったと供述するが、控訴人も売買ということの意味はわかっているはずであり、被控訴人高野との間の売買契約書、農地関係書類、登記委任状等には自署捺印し、公正証書の作成にも自ら立ち会っている事実に照らし、最終的にどのような解決になるのかはよく理解できなかったにしても、土地を売ること自体まで理解していなかったとは考えられず、右供述は採用できない。以上のことからいって、再抗弁中通謀虚偽表示、心裡留保及び錯誤の主張はいずれも理由がない。

(二)  そこで、控訴人の再抗弁中、詐欺の主張について検討を進める。

(1) さきに認定したとおり、本件は、控訴人が財産管理能力に乏しく、自己の利害得失についての基本的な判断能力に欠け、人の言を信用しやすいことを見てとった兼本が周辺の不動産業者らと組んで、当初から、控訴人に本件土地を処分せざるをえないと思わせるような立場に追い込み、不当な利益を得ようともくろんだ事案であることは疑いのないところであり、事実、兼本の意を受けた不動産ブローカーが本件に多数関与し、多額の手数料を取得していると認められるのである。兼本の供述は、そもそもの初めにおいて、兼本が控訴人のために一億一〇〇〇万円もの金員を支出したか否かについてすら、極めて曖昧で、なんら客観的資料の裏付けがなく、その場しのぎの言い逃れとしか考えられない弁解に終始していて、はなはだ疑わしいもので、到底信用することができるものではないといわなければならない(なお《証拠省略》によれば、当時控訴人から兼本に対して抵当権抹消登記手続を求める訴えを提起していたことが認められる。)。そして、前記認定の事実からすれば、被控訴人高野もこうした事情を十分知っていたものと認められる。同人は原審において、自分は事情を知らずに中間の利益を得ようとしただけであると供述するが、自分は現実には一〇〇万円の利益を得ただけであるにしても、一億円で買った土地を、そのことを知っている被控訴会社にすぐ一八〇〇万円もの中間利益を得て転売するという、通常では考えにくい虫のいい取引であることや、支払われるはずもない一億円の小切手を用意して控訴人に渡していることからいっても、控訴人を欺すことがわかっていたことは明らかといってよく、同人の供述も到底信用の限りではない。控訴人の詐欺の主張は理由がある。

(2) 次に被控訴会社が詐欺については知らなかったとの再々抗弁について判断する。

被控訴会社代表者は、その主張にそう供述する。しかし前記認定のとおり、兼本は、控訴人から、花子が控訴人に対し準禁治産宣告の申し立てをしたことを聞き知っていたこと、被控訴会社は、本件取引にあたり、控訴人が行為能力者であることをわざわざ市役所で確認しており、右事情を兼本等から聞き知っていたものと推認できること(被控訴会社代表者は、以前の取引で行為能力の有無が問題になり、損害を被ったことがあるから調査したものであると供述するが、右のように推認するのが自然というべきであり、被控訴会社が右申立て等の事情を知っていたことを否定する前掲甲第二三号証の記載及び被控訴会社代表者の供述は採用しがたい。さらに言えば、本件のような単純な土地売買につき公正証書を作成し、これによりその売買が行われたことを確認したというのも、かえって通常の取引ではないことを窺わせるものがある。)、被控訴会社は、中間の買主(被控訴人高野)を立てることを要望し、一八〇〇万円もの中間利益を与えてまで本件土地(二)を控訴人から直接買い受けることを避けたこと(被控訴会社代表者及び被控訴人高野は、右は、本件土地(二)に多数の抵当権が設定されていたので、中間の買主に責任をもって消してもらうために行ったものであると供述するが、被控訴人高野にはなんの資力もなく、結局は被控訴会社から支払う代金で抹消するほかないのであるから、納得しうる説明とは言いがたい。むしろ、被控訴会社において、控訴人から直接買い受けることにつき不安を持っていたことを表すものであり、ことさら第三者を経由して、善意の第三者の地位に立つために行ったものと疑われてもやむを得ないところである。)、被控訴会社は、本来当事者でもない控訴人と被控訴人高野間の売買契約が締結された一一月一四日に、野田司法書士に立会いを依頼していたこと、被控訴会社が支払った売買代金は、被控訴人高野に中間利益を得させる形になっているとはいってもなお本件土地(二)の時価からすると、かなり低額であり、地元の不動産業者である被控訴会社は当然これを知っていたと思われること(右時価がほぼ代金額に見合う旨の被控訴会社代表者の供述は、前掲甲第二三号証に照らし、採用できない。)等の事実を併せ考えると、被控訴会社代表者の供述はそのまま信用することはできない。かえって右の諸事情からすると被控訴会社は控訴人が前認定のように兼本らに欺罔され、その結果被控訴人高野への売買契約を締結するものであることを知っていたものと推認してよく、少なくとも被控訴会社がこの点を知らなかったとの証明はないといってよい。再々抗弁は理由がない。

(3) 控訴人が平成元年九月二六日の原審口頭弁論期日において、被控訴人高野との本件土地の売買契約を取り消す意思表示をしたことは、記録上明らかである。

3  以上判示のとおりであって、控訴人の再抗弁中詐欺による取消の点は理由があり、右売買契約は有効に取り消されたものであるから、被控訴人らの抗弁はいずれも理由がないことに帰する。被控訴人らの所有権移転登記はいずれも実体関係を欠くものである。

三  以上のとおりであって、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求はすべて理由があり、これを棄却した原判決は相当でないから、本件控訴はいずれも理由がある。

よって、原判決を取り消し、控訴人の被控訴人らに対する請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 満田明彦 亀川清長)

<以下省略>

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